
今月も福島県在住のfukunomo愛好家である林 智裕さんが、fukunomoを体験しての感想&紹介をレポートしてくださいました!
【連載第91回目】
「酒は大七、旨さは第一」──。この名文句は、昭和を知る福島県民によく馴染む。
大七酒造。1752年(宝暦2年)の創業以来、奥州二本松の城下町で醸し続ける酒造りは、今もなお最も伝統的といえる醸造法、「生酛(きもと)造り」一筋で貫かれている。
生酛造りは伝統的な技法に基づく近道無き過酷な手間と時間、忠実さ、何より熟練の技が求められる。そこに妥協は許されない。いわば、歴史的文化財の建築や製作技法にも通じるところがあるかもしれない。
生酛造りは、発酵に不可欠な乳酸菌を余所から精製して持ち込まない。米や米麹を丁寧にすり潰し液状にすることで、乳酸菌が発生しやすい環境を整える。そうやって、蔵に自生する環境から集め育てる。一からじっくりと、酵母の集合体ともいえる酒母を地道に造り整えて醸す。実に根気と労力が要る重労働だ。当然、一般的な速醸酛に比べ時間もコストも圧倒的にかかる。
ところが大七は生酛造りにこだわり続け、蔵で醸す全ての酒に徹底させている。最高級のものばかりではない。地元の人達が普段から気軽に楽しむ晩酌酒に至るまでだ。
なぜ敢えて生酛なのか。答えは蔵元のみが知る。だが僭越ながら語らせて頂けば、「それに拠らずしては決して辿り着けない至高の境地があるからではないか」と思う。大七の酒を飲むたび、確信的に感じさせられる。特に「食」と合わせた瞬間──まさにペアリングを楽しむときこそ、その言葉の意味と大七の真価が強く理解できるだろう。
大七生酛には、文字通り自然から磨き抜かれた、力強さを体現する洗練の気品が漂う。
澄んだ口当たりを実現しつつ、同時に極めて芯が強い酒質。芳醇な旨味と仄かな苦味、甘味、酸味など数多の味覚を包括している、熱しても、冷ましても、常温でも、それぞれに素晴らしい魅せ方が出来る。実に懐が深い酒に仕上がるのである。その饗宴を喩えるならば、トラディヴァリウスのアンサンブル 。洋の東西を問わず、どんな肴をも惹き付けて止まない堂々たる風格を持つ。
福島の酒は近年、飛躍的に注目を集め、知られるようになった。しかし大七は、それよりもずっと古くから通の間で知られ愛され続け、名誉ある数々の賞も受けてきた銘酒である。まるで文化財が長い歴史に磨かれ、調和し、受け継がれてきたかのように。大七生酛の存在は文化そのもの。クラフトマンシップの体現であり、承継とさえ言えるだろう。
「酒を嗜むというのは、その地の文化を嗜むにも等しい」というのが私の持論である。今宵はぜひ、福島が誇る「大七」という珠玉の文化を、ぜひ愉しんで頂きたい。
■今月の美酒
・大七 純米生酛<福島県二本松市/大七酒造>

■勝手にペアリングを考えてみた
福島が誇る大七酒造。生酛造りだけあってかなり力強い、旨味の強さが身上と言える。
冷で善し。燗で善しの万能酒。とりわけ、燗酒としての魅力は世界最高峰クラスと言っても過言ではない。イワナの骨酒やフグヒレ、エイヒレなどと合わせると絶品という感想以外出てこない。並みいる銘酒を蹴散らしてしまう凄味がある。
その懐の広さは和食のみならず、チーズなどとの相性も良い。特にカマンベールのような苦味が加わると良いアクセントになる。
他に苦味を合わせる場合、季節的にも山菜の類を合わせても良い。味噌、醤油との相性も良し。唐辛子系の辛さと合わせても負けないので、韓国風などのエスニックにも使い易い。一方で、酒の芯が強いので、基本的に肴は淡白過ぎない方が良いと思われる。とはいえ、そういうものばかりを合わせてしまうと塩気などが強くなってしまうので注意する必要がある。どこかに箸休め的なのを入れることで、酒の良さをいつまでも堪能し続け易くなる。豆腐などを合わせてみると丁度良いか。
燻製も捨てがたい。特に、淡白なものより脂がややのったものが良い、たとえばイワナの燻製やアン肝の燻製、スモークサーモンなど。これらを燗酒に合わせ、口の中で香りを開かせるイメージで。イカの燻製を炙ってやるのも良い。
甘味としては、同じ二本松の地で同じく江戸時代から続く玉嶋屋羊羹。あの素材感を生かした餡の食感が、この酒に合わないわけがない。
それではいよいよ、今月のfukunomoペアリングを楽しんでいこう。
■今月のマリアージュ/ペアリングセット

・赤魚の粕漬《福島県いわき市/株式会社大川魚店》
・ふきのとうしょうゆ《福島県南会津郡南会津町/株式会社会津物産》
・おでん《福島県いわき市/小泉食品株式会社》
・桧枝岐そば レギュラー《福島県会津若松市/会津製麺工業有限会社》
・玉嶋屋の玉羊羹《福島県二本松市/株式会社玉嶋屋》
・赤魚の粕漬《福島県いわき市/株式会社大川魚店》

一品目は、いわき市の老舗魚店である大川魚店から「赤魚の粕漬け」。目利きが選んだ脂がのった赤魚に、他ならぬ大七生酛の酒粕に漬け込んだ逸品である。
これをグリルでじっくり、ゆっくりと、焦げないように炙る。面倒ならフライパンでもいい。肝心なのは、待ち遠しいがじっくり焦らずやるってところだ。すると、元々が燗酒にしても旨味が強い大七生酛の酒粕から芳醇な風味が立ちのぼってくる。脂が液状になってパチパチ…ジュワジュワ…とはぜる音と共に、魚の脂の香ばしさが混じりだす。
魚の身をほぐしながら、零れだした脂と酒粕を混じり合わせて口に運ぶ。そこに、大七生酛を口に含む。これが合わないわけがない。
酒の温度は…これは好みで構わないが、おすすめとしては人肌燗から熱燗くらいがいい。そうすると、魚の焼き加減の…そう。ちょうどいい感じのじゅわっとしたあの感じ。あれだ。それがそのまま、きゅー…っと口の中で酒のひたひた感と混じってジュッ!と音を立てる。 瞬間、魚の香りも味も一気に口のなかで弾けた上に、身は一層ふんわりと馴染んで、じわじわと沁み渡る感じになる。余韻がずっと広がる。魚好きの日本酒呑みにはたまらないな。最高だ。
・おでん《福島県いわき市/小泉食品株式会社》

そこに、おでんも一緒に合わせてやるといい。温かい酒に温かい出汁が混じると、これがあまりにも上等すぎる出汁割りになる。大七生酛「ならでは」と言える力強い風味が出汁と掛算みたいに合わさり、まるで寒空の下で暖をとった瞬間の…感動なのか寒さなのか両方なのか。とにかく、語彙力を失ってジーンと震えがくるような味が広がる。
出汁だけでもこれだ。そこに、いよいよ味がよく染みた具材も食べる。大根をハフハフしながら口に入れ、口の中でじゅわっと広がる出汁と酒が混じり合い、香りの芳醇がまた広がる。昆布や練り物を齧るたび、旨味が更にマシマシになる。蒟蒻の食感とアクセントも、混じり合った旨味を噛みしめるようで実に旨い。
こういう、赤ちょうちんの屋台で燗酒をキュッとやるような感覚で晩酌を楽しむような古き良き日本の趣もまた、一つの文化的な醍醐味だと思う。しかも、出てくる酒は、燗酒の究極とさえ言えるような大七生酛。こんな贅沢な文化堪能があるだろうか。五臓六腑に沁み渡り、気持ちまで温かくなっていく。実に乙だね。粋だね。
・ふきのとうしょうゆ《福島県南会津郡南会津町/株式会社会津物産》

ここで一つ、苦味を入れてくれるのが「ふきのとう醤油」。
「春は苦味を盛れ」なんて言葉もあるように、この季節の旬とも言える味わい。この濃いめの味付けとほろ苦さが、赤魚の粕漬けとおでんの、やんわりした甘味と出汁の旨味を満喫したところに丁度いい。ほろ苦いが、苦すぎない。
酒というやつは不思議なもので、少しくらいの苦味があったほうが味に奥行きや盛り上がりが出来る。物語の鍵を握る強敵(とも)、乗り越えるべき先行研究 、あるいは寿司のワサビや音楽のサビみたいなものだ。そういうアクセントによって全体が引き締まることで、苦味以外の旨味、甘味なども一層感じやすくなる。愉しんだ後の満足感や余韻もひとしおになる。甘味も苦味もほどほどにあってこそ、味わい深いというやつだ。
しかし、ここまで言っておいてなんだが、このふきのとう醤油は単品でも十分に旨いな。ご飯のおかずにも丁度良いが、大七生酛は基本的に「炊き立てのごはんに合うものなら何でも肴になる」と断言してもいい。
・檜枝岐そば《福島県会津若松市/会津製麺工業有限会社》

酒で火照ったところに、蕎麦は実に旨い。もちろん温かい焼き魚やおでんに続いての温蕎麦も捨てがたいが、ここは敢えて冷やしざる蕎麦。こうしてやると、これまでの温かい酒や肴とのメリハリで、蕎麦の喉越しや香りの良さが一層引き立つというもの。
なにより、会津の蕎麦は特に香りが高い。「良い日本酒には良い蕎麦が合う」これは日本酒呑みの共通認識であろうもの。まして「桧枝岐」とは、かの有名な「尾瀬」のふもとで、高品質の蕎麦産地でもある深山。
ここに、もし手元にあれば大根おろしも合わせたい。おでんの大根とはまた違う、少しピリッとした辛味。これを蕎麦と一緒に食べると、このメリハリが一層際立つ。さらに先ほどの「ふきのとう味噌」と大根おろしを絡めても、苦味と爽やかさが癖になる。ついでに、蕎麦つゆ、あるいはさっきのおでんのだし汁に、大根のおろし汁を少し足して啜ってやるのも良い。つゆ、出汁、それらと蕎麦の香り、酒の香りが入り乱れる。配合次第で、旨味と香りの表情が微妙に変わる。まさにペアリングの妙、といったところだ。
・玉嶋屋の玉羊羹《福島県二本松市/株式会社玉嶋屋》

そして最後を飾るのが、「勝手にペアリング」でも推した二本松の玉嶋屋から、名物玉羊羹。江戸時代には東北各地の大名に所望され、徳川将軍家にまで献上されていたという由緒正しき贅沢品。
今もなお、餡は当時と同じように楢(ナラ)の木を使った薪を燃料にして煉り、伝承の手作業職人技もそのままに作られ続けている。 酒の伝統が生酛なら、羊羹は玉嶋屋の楢薪づくり。二本松が誇る伝統の技と文化をそのまま味わえる組み合わせである。
上質な小豆の素材感ある甘味と、シットリ滑らかな口当たりは、大七の強い風味に比肩し、その魅力を一層高めてくれる。さらに酒の〆としても極めて秀逸。今回のペアリングの〆として、大変満足感が高い。さすがの一品といったところ。
というわけで、今月も美味しく頂いてしまったfukunomo。地元以外では中々手に入れることが出来ない地酒中の地酒や、隠れた銘品が毎月お手元に届くという贅沢は、他ではなかなか味わえない。これも、福島のさまざまな人やモノとの繋がりが深いfukunomoならでは。
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