
十八代目蔵元 仁井田 穏彦さん
1994年に蔵元に就任、2010年からは杜氏を兼務。杜氏になったことを機に、“自然派”の酒造りへ。自社田での米作りも行っている。
女将 仁井田 真樹さん
製品開発、SNSでの発信、県外でのイベントなど、「女将」として幅広い仕事に携わっている。
にぎやかな郡山市の市街地から、車で二十分ほど走ると、目の前には田園風景が広がります。
仁井田本家は、そんな自然豊かな場所に蔵を構え、十八代――三百年以上の歴史を刻んできました。
蔵を訪れると、順路を示す看板には可愛らしいカエルが。
『穏』のラベルでもおなじみのカエルのロゴマークは、
「日本の田んぼを守る酒蔵」という使命を表しています。
自然に“かえる”酒造り――
仁井田本家では、農薬や化学肥料を一切使わない、“全量自然米”での酒造りが行われています。
自然に負荷をかけない酒造りは、未来の自然を守ることにも繋がります。
三百年続いてきた蔵が、三百年後も続いていくように――。
自然と共に生きる酒造りについて、お話を伺いました。
■“たまたま”を目指し、酒を育てる
「“造る”ではなく、“出来る”酒なんです。私たちの役目は、いいお酒になるように、環境を整えてあげることだけ」
そう語るのは、十八代蔵元の穏彦さんです。蔵元杜氏を担うことになったおよそ20年前に、“自然酒”の造りへと舵を切りました。農薬や化学肥料を一切使わない自然米を使い、蔵付きの天然菌の力だけで発酵を進める―。人の手で何かを加えることなく、自然の力を最大限に引き出す酒造りです。
酒の味わいは、米の出来や微生物の状態、天候など、自然に左右される部分がとても多くなります。だからこそ、同じ酒はふたつと出来ません。もしかしたら、奇跡のような一本が“たまたま”生まれるかもしれない―。そんな期待を胸に、今日も酒を育てています。
今月お届けしたのは、そんな「自然から出来上がった一本」―『にいだしぜんしゅ “うらっかえる” 生酛純米吟醸 うすにごり』です。どんな表情を見せてくれるのか、じっくり味わってみてください。

■「超える」必要はない
蔵を継いだ当初、穏彦さんには「父を超えなければ」という強い想いがあったといいます。十七代目の父は、仁井田本家を大きく飛躍させた存在。その背中は遠く、焦りやプレッシャーに押しつぶされそうになる日々が続きました。
転機となったのは、2011年の東日本大震災でした。蔵の存続すら危ぶまれる状況の中で、ふっと腑に落ちたのだそうです。
「自分の役目は“超える”ことじゃない。今この危機を“しのぐ”、そして十九代目へ渡すことだ」
それまでは「自分ひとりですべてやらなければ」と抱え込んでいましたが、肩の力が抜け、人に任せ、頼ることができるように。すると、多くの仲間が力を貸してくれるようになり、蔵の活性化に繋がっていきました。
父に勝つのではなく、父を土台として、そこに“足していく”。そんな穏彦さんのしなやかな姿勢が、仁井田本家を支えています。

■酒は“つながり”を生む
仁井田本家のお酒は、各地のイベントなどでも楽しまれています。イベントでは、女将・真樹さんを中心にスタッフが直接お客様と触れ合う機会も多く、「仁井田って面白いね」「蔵を見てみたい」と声をかけてもらえることも珍しくありません。
「お酒は、コミュニケーションのきっかけをつくってくれるもの。人と人とがつながる手段のひとつだと思うんです」
自然と共に生き、人と繋がりながら、“たまたま”が生む酒を味わう……。三百年後を見据えた仁井田本家の酒は、今日も自然の中でゆっくりと“出来上がって”いきます。
