磐梯山の恵みから生まれる酒が人の和を醸す 磐梯酒造《福島県耶麻郡磐梯町》 - fukunomo(フクノモ) ~福島からあなたへ 美酒と美肴のマリアージュ~

磐梯山の恵みから生まれる酒が人の和を醸す 磐梯酒造《福島県耶麻郡磐梯町》

5代目 桑原 大さん
磐梯町生まれ。東京理科大学に進学し、大手アルコール会社に就職。研究開発職に3年ほど携わり、1990年に蔵に戻る。10年後に代表を引き継ぎ、また杜氏が引退したことを機に、製造設計も担うようになった。

米も、水も、人も、すべては磐梯町からー。磐梯酒造は、その名の通り、福島県の名峰・磐梯山の麓に蔵を構えています。
初代は地元の議員、三代目は磐梯町の町長を務めるなど、
酒造りに加えて地域の活動にも力を入れてきました。
五代目である桑原大さんもその志を受け継ぎ、地域に根ざした”地酒”を造り続けています。

伝統を大切にしながらも、日本酒や町のためになることには挑戦したいー。
常に前を向く桑原さんに、蔵や地域の未来について伺いました。

 

“和醸良酒”の意味

  お客様を迎える磐梯酒造の入り口に掲げられた一枚の木札。そこに刻まれる「和醸良酒」という言葉には、二つの意味が込められています。一つは、「和をもって良い酒を醸す」。蔵人が協力し合って、美味しいお酒を造ろう。もう一つは、「良い酒は和を醸す」。美味しいお酒を召し上がったお客様に、和やかな時間をお届けしよう。社是であるこの言葉の意味を、桑原さんは毎年必ず蔵人へ話しています。
「私たちが造っているのは、タンクいっぱいの日本酒じゃないんです。お客様の”この一杯”なんだと思ってほしい」
忙しい中でも、毎日蔵人全員となにがしかの会話をするようにしている桑原さん。些細な”和”こそが、美味しいお酒につながると信じて。
 そんな蔵で生まれた今月のお酒『磐梯山 四段仕込本醸造』は、手間と時間をかけた一本です。通常、酒造りは「三段仕込み」で行われますが、こちらはもう一段、甘酒を加えています。甘酒によるコクや旨みと、すっきりとしたキレが両立し、桑原さんにとって理想的なお酒に仕上がりました。この一本が、きっとあなたに和やかな時間をもたらしてくれることでしょう。

やがて蝶となる”さなぎ”

地元への想いや社是など、これまでのものを大切にする一方、桑原さんは新たな試みにも力を入れています。今年3月に発売した『さなぎ』は、入社5年目の女性従業員に、原料の選定からネーミングまで、酒造りの全工程を一任したものです。福島県清酒アカデミーに通っていた彼女は、これまでとは異なる新たな手法を取り入れました。不安や心配を抱えながらも、「やってみなさい」と桑原さんは一切の口出しはしませんでした。
彼女が真摯に酒造りと向き合う様子に、周りの蔵人が「これは絶対に成功させなければ」と感化されていくのがわかったといいます。出来上がった『さなぎ』は、軽くスッキリとした味わい。「今はまださなぎだけれど、やがて蝶になって羽ばたいていく―」という願いが込められた名前です。
 また、今年4月には桑原さんの息子・大和さんが入社。学生時代から蔵を手伝っており、現在は福島県清酒アカデミーに通う大和さんは、「社長が経験したことのない酒造りに挑戦したい」と前向きな意欲を語ってくれました。人手不足も嘆かれる日本酒業界において、磐梯酒造では着実に若手が育っています。

蔵と町を、未来へつなぐ

  日本酒がなかなか売れないと言われる中で、蔵を遺すために戦略を練っている桑原さん。その一つが、高付加価値のお酒です。地元・磐梯町のりんごを使ったリキュールは既に人気で、日本酒に馴染みのなかった層からも支持を集めています。白ワインのようにさっぱりとした味わいで、日本酒の間口を広げることを狙っています。
 初代から受け継ぐ地元・磐梯町への想いはずっと変わりません。地域に根差し、過疎化の進む町を盛り上げていきたい。蔵と町を、未来へつなぐために―。