「飲みたい酒しか造らない」2人の覚悟が醸す、暮らしに寄り添う酒 鶴乃江酒造《福島県会津若松市》 - fukunomo(フクノモ) ~福島からあなたへ 美酒と美肴のマリアージュ~

「飲みたい酒しか造らない」2人の覚悟が醸す、暮らしに寄り添う酒 鶴乃江酒造《福島県会津若松市》

代表取締役 向井 洋年さん
東京農業大学醸造科を卒業後、鶴乃江酒造に入社。一度退職して千葉県で7年間会社員として働く。ゆりさんと結婚し、2007年に再び鶴乃江酒造へ。

専務取締役 林 ゆりさん
七代目の長女。東京農業大学醸造科を卒業後、鶴乃江酒造に入社。入社1年目に母と共に造った『ゆり』が、女性による女性のための酒として話題となった。

会津若松の地で、230年もの歴史を刻んできた鶴乃江酒造。
数々の鑑評会で賞を獲得して全国の酒蔵と肩を並べ、福島県内はもちろんのこと、全国にファンを持つ人気の酒蔵です。
そんな酒蔵をつくりあげてきたのが、向井さん・ゆりさんご夫婦です。
一度は蔵を出て、関東で暮らしていたお二人。
当時は経営状態が良くなかったため、再び蔵に戻るまでには悩みに悩み、「最悪のシナリオを想定した」といいます。
平坦ではない道を歩んできたお二人は、今、自分たちが「本当に飲みたい」と思える酒だけを丁寧に造り続けています。
今回は、そんな鶴乃江酒造の原点である、会津で愛される〝普通のお酒〞をお届けします。

 

大学時代からのパートナー

鶴乃江酒造をご夫婦で支える、向井さんとゆりさん。お二人は、東京農業大学の同級生です。
「学生時代、勉強は大嫌いでしたね」という向井さん。大学に進学するつもりはありませんでしたが、「お酒を造る大学があるんだ」と興味を持ちます。しかし、それまでは完全に文系。醸造学科は理系だと知らないままに受験に挑み、1年浪人の末に入学を果たしました。
 
一方のゆりさんは、蔵を継ぐかどうかは決めていませんでしたが、親孝行のつもりで醸造学を専攻。入社1年目に仕込んだお酒『ゆり』が想定外の反響を呼びます。

大学卒業後、一度鶴乃江酒造に就職した向井さん。しかし、蔵の経営状況などを理由に一度退職します。お二人は結婚し、向井さんの地元である千葉で暮らしていました。
数年後、ゆりさんの弟から「二人で蔵を継いでくれないか」と声をかけられます。あまり悩むことはないという向井さんですが、この時ばかりは1年間返事ができませんでした。しかし、ゆりさんの「蔵を残したい」という想いも後押しとなり、ついに決断をします。ただし、銀行に勤める知人からは、
「その経営状態で本当に大丈夫なのか」と言われるほどの状況でした。

「最悪のシナリオを想定していました」と向井さん。ご夫婦と杜氏、たった3人で酒造りから瓶詰め、販売まで行うことになるかもしれない―。
そう覚悟を決め、杜氏にもその想いを伝えた上で蔵に戻ってきました。
 
幸いにも、最悪のシナリオは歩まずに済みました。ラインナップを整理し、コツコツ品質を上げ、様々な鑑評会で高い評価を得るまでに。そして現在は、自分たちが心から「飲みたい」と思えるお酒しか造らない―という姿勢で、蔵を支えています。

会津の〝普通のお酒〞

今月お届けしたのは、鶴乃江酒造の看板商品『会津中将純米酒』。
「迷ったらこれ」と勧める一本です。
「普通のお酒なんです。地元の人が一升瓶で買って、毎日の晩酌で飲むような……。そういうイメージで造っています」と向井さん。
ゆりさんは、
「私は、純米酒って『白いご飯が液体になった』ものだと思っているんです」と話します。
「だから、ご飯に合うおかずなら、このお酒とも合いますよ。派手さはありませんが、おうちごはんにぴったりです」
 
「私たちが飲みたいお酒しか造りません」と言い切るお二人。
どんなに世の中で流行っていても、自分たちの好みでないのなら無理には造らない。毎日晩酌をするお二人だからこそ、自分たちが「また飲みたい」「毎晩飲みたい」と思えるお酒を―という気持ちを大切にしているのだそうです。
 
〝自分たちの酒〞を追求するその姿勢が、鶴乃江酒造の魅力になっているのでしょう。これからも、二人が「また飲みたい」と思える酒を、会津から。