酒造りはみんなでするもの誰もがチャンスを手にできるように 花春酒造《福島県会津若松市》 - fukunomo(フクノモ) ~福島からあなたへ 美酒と美肴のマリアージュ~

酒造りはみんなでするもの誰もがチャンスを手にできるように 花春酒造《福島県会津若松市》

・取締役 杜氏兼製造部長 柏木 純子さん

会津若松市出身。

大学卒業後、花春酒造に入社。

2006年に杜氏として酒造りを統括する立場になり、2020年より取締役を兼務。

 

四方を山々に囲まれた福島県・会津若松で、300年以上もの歴史を持つ花春酒造。
雪深い冬に行われる酒造りは、決して楽なものではありません。
しかし、時に厳しいその自然の恵みこそが、酒を育ててくれるのもたしかです。
「会津のよさは酒の良さ」というキャッチフレーズには、地元である会津地域への想いが詰まっています。
水・米・米麹と原材料がシンプルなだけに、水は酒造りにとても重要な要素です。
花春酒造は、良質な水を求めて2005年に現在の場所へ移転しました。
整備されていない土地だったため、下水処理の設備まで一から作り上げ、今では一日300トンもの水が湧き出ています。
「水は酒の命」ーこのこだわりが、花春酒造の酒を支えてきたのです。
現在、取締役として花春酒造を牽引するのは、二人の女性です。
今回は、酒造りを統括する柏木さんにお話を伺いました。
酒造りに魅了され、男性ばかりだった現場へ飛び込み、子育てをしながら酒造りと向き合い、やがて杜氏にー。
伝統ある蔵を支え、そして未来へ繋いでいくために、「みんなで造る酒」という想いを語ってくださいました。

 

本当に好きなことだったから

杜氏として花春酒造の酒造りを統括する柏木さんですが、入社時は研究職。日本酒もあまり飲んだことがありませんでした。初めて蔵に入った時の衝撃は、今でもよく覚えています。
「何百年も続く伝統を背負い、細部まで気を配りながら一本の酒を造っていくという緊張感に、『この世界はなんだ―?』と感じました。そして、ひと仕事終えた蔵人たちのほっとしたような笑顔がまた素敵なんです。いつしか『自分ならどんなふうに造るだろう?』と考えるようになりました」
 
念願叶って酒造りの現場に入った柏木さんですが、酒造りは力仕事でもあります。とても持ち上げることができなかった30キロもの米袋も、やがて持てるように。まだ幼い子どもたちを置いて、深夜に蔵で酵母につきっきりになることもありました。
「自分ひとりではとても出来ることではありませんでした。蔵人の先輩方、家族……周りの人の支えがあったからです。大変なこともありましたが、酒造りが本当に好きだったから、続けることができました」

毎日の暮らしに寄り添う酒を

柏木さんが大切にしているのが、「日本酒は特別な日のものではなく、日常に寄り添うもの」という想いです。
「1日の終わり、仕事の後に手に取ってもらって、疲れを癒してくれるような、『今日もいい日だったな』と思えるような……。日常の中に当たり前に置いてもらえるような、そんなお酒を造りたいんです」
 
昨年、『花春 山田錦大吟醸』が「福島県秋季鑑評会」で最高賞となる知事賞を受賞したのは、花春酒造にとって大きなニュースでした。もちろん自信作ではありましたが、まさかこれほど大きな賞を獲得するとは誰も予想していなかったのです。蔵全体に驚きと喜びが広がった瞬間でした。

 

みんなで造る酒

 

酒造りを始めた頃、悩みを先輩に相談すると、「酒造りはひとりでやるもんじゃないんだ」と諭されたという柏木さん。蔵人という製造の小さなチームがあり、そして会社という大きなチームがある。
その全員で酒造りをしているのだと考えています。
 
ここ数年で製造と販売との距離がかなり縮まり、販売が聞いてきたお客様の声をもとに「こんなお酒を造ってほしい」と、製造へリクエストが届くようになりました。
今月お送りした『会津のにごり 純米吟醸』も、そうして生まれたもの。にごり酒は一般的に甘口のものが多いですが、料理が引き立つようにと辛口で設計しました。fukunomoでお送りする初のにごり酒です。ぜひ食事と共に楽しんでください。
 
柏木さんの今後の目標は、「次世代を育てること」。自分が酒造りという本当に好きなことに関わることができたからこそ、次の世代にも同じチャンスを。そのためには、酒造りの魅力や面白さを伝え、「自分の手で酒を造りたい」と思える環境が必要です。これからも花春酒造は、みんなで想いを込めた酒造りを行っていくのでしょう。