小さな蔵から生まれる 新しい酒造り。山口合名会社《福島県会津若松市》 - fukunomo(フクノモ) ~福島からあなたへ 美酒と美肴のマリアージュ~

小さな蔵から生まれる 新しい酒造り。山口合名会社《福島県会津若松市》

蔵元 山口 佳男(やまぐち よしお)さん
1956年生まれ。東京の大学に進学し、会社勤めを経て25歳で帰郷。
社長に就任。大のカレー好きで、
こだわりのスパイスカレーをイベントで振る舞うことも。

代表銘柄の名から、会州一酒造とも呼ばれています。酒蔵の歴史は会津一古く、創業は一六四三年。
かつては一五〇〇坪もの広大な敷地で酒造りを行っていました。今も、会津若松市の中心に蔵があるのは変わりません。ただ、蔵の大きさはぐっとコンパクトに。

「会津一小さい蔵」とも称される蔵で行われている酒造りとは―?

会津一古くて、会津一新しい蔵

2005年、関連会社の経営破綻によって、山口さんは蔵を手放さなくてはならない状況にまで追い込まれました。実際に蔵を一旦休止し、取引先に「辞めます」と言って回ったのだそうです。

しかし、「『会州一』をなくしてしまうのはもったいない」という多くの声が思いがけないほど多く寄せられました。その声が後押しとなり、山口さんは蔵を再開する決意をします。

「周りの人の応援がなければ、今はなかったでしょうね。年齢もちょうどよかったのかもしれません。当時私は50歳だったのですが、もっと若ければ新しいスタートを切っていたかもしれないし、もっと歳を重ねていたら酒造りは体力的につらかったと思います。すべてがいいタイミングだったんでしょう」

1,500坪という広大な土地を手放し、新たな酒蔵は60坪。機器はすべて最小のものを選び、従業員たちと建築士と共に他の酒蔵に視察に赴き、図面に向かい、動線の設計を行いました。貯蔵スペースが限られているので長期間の保管はせず、10 ヶ月で売り切るように製造と販売を計算しています。

当初は「一度休止した蔵だから……」と門前払いされたこともあったといいます。それでもコツコツ造りを続け、再スタートから3年、福島県の鑑評会で最高賞となる金賞を受賞。「会津で一番の酒」が由来の『会州一』は復活を果たしたのです。

宇宙へ行ってきたお酒!?

今月お送りした『会州一 東北復興宇宙酒 純米酒』は、ユニークな一本です。2021年、「東北復興宇宙酒」というプロジェクトがスタートしました。福島県のオリジナル酵母「うつくしま夢酵母」をロケットに乗せて1ヶ月ほど宇宙に滞在させ、帰還した酵母を培養。福島県内の31蔵がそれを使った酒を造るというものです。

「酵母の特徴を活かして、辛口に仕上げています。最近はスッキリ飲みやすい酒が好まれる傾向もありますから」

「料理の邪魔をしない」と評されてお寿司屋さんで採用されている一方、濃い味のおつまみにもマッチするそう。どんな料理にも合うとなれば、ついつい杯が進んでしまいそうです。

弱点がなくなった

今回の取材、印象に残ったのは「酒の弱点がなくなった」という言葉でした。

これまで会州一では、「酛」を立てない酒造りを行ってきました。あまり一般的ではない方法ですが、蔵の限られた空間などを考慮すると、当初はこれが最善だと考えていたのです。

コロナ禍で時間が出来た際に造りを見直してみると、品質に若干のバラツキがあることに気づきます。そこで「簡易的に酛を立てる」という手法を試すことに。寸胴のような小さなタンクに少量の「酛」を立てるのです。これをすることで品質がぐっと安定するようになりました。

「酸が抑えられて飲みやすくなりました。実際にお客様から「美味しくなったね」という声もいただいています」

 コロナ禍を経て、取引先もその先の一般消費者も、ファンが増えたことを実感しているという山口さん。「弱点がなくなった」とは、最強ということでは―? 山口さんの探究心によって、『会州一』はますます魅力的な銘柄になりそうです。