二本松の祭りを支えてきた一本は地元の誇り。檜物屋酒造店《福島県二本松市》 - fukunomo(フクノモ) ~福島からあなたへ 美酒と美肴のマリアージュ~

二本松の祭りを支えてきた一本は地元の誇り。檜物屋酒造店《福島県二本松市》

蔵元 齋藤一哉(さいとう かずや)さん
1971年、二本松市生まれ。東京の大学に進んだ後、蔵を継ぐべく福島へ帰郷。市内の菓子店とのコラボ商品など、地元の企業同士の取り組みにも力を入れている。

檜物屋酒造店の代表銘柄『千功成』。
「千の功績が成る」という縁起の良い意味が込められており、
大吟醸から普通酒まで、さまざまな種類があります。

そんな檜物屋酒造店の酒は、およそ八割が地元・二本松市で消費されているといわれます。
ですから、福島県外はもちろん、二本松市を出るとなかなかお目にかかれません。
居酒屋ばかりでなく、なんとスナックにも『千功成』の一升瓶が置かれているとか。

長く地元で愛されてきた『千功成』、特に出荷量が多くなるというのが秋です。
毎年十月は、二本松提灯祭りの季節。
「祭りに日本酒は欠かせません」という齋藤一哉さんに、お話を伺いました。

町に提灯が輝く夜

日本三大提灯祭りに数えられる「二本松の提灯祭り」は、毎年10月上旬、3日間に渡って開催されます。350年もの歴史を持つ、福島県重要無形文化財です。
 一番の見どころは、「宵祭り」と呼ばれる初日の夜。7つの地域がそれぞれの太鼓台で町を練り歩きます。太鼓台には、町名の入った提灯がおよそ300個。7つの太鼓台が勢い良く動き回り、そして集結する様は迫力満点です。
 この祭りに欠かせないのが、日本酒。祭りの3日間、参加者はもちろん、見物人も含めて皆が日本酒をよく飲むのだそうです。二本松市にはいくつか酒蔵がありますが、一番飲まれているといわれるのが『千功成』。その理由は、甘めの味わいにあるとか。いわく、二本松の家庭の味―濃い味付けに合う。いわく、つまみを食べる余裕がない時でも、酒だけでぐいぐい飲むことができる、と。
 檜物屋酒造店は、二本松駅にほど近い、町の中心に位置しています。ここで生まれ育った齋藤さんは、幼い頃からたくさんの人が祭りで『千功成』を飲んでいる姿を見てきました。

金木犀の香りと共に

「二本松では、盆や正月よりも祭りに合わせて帰省する人が多いんですよ」と齋藤さん。二本松の人にとって、1年の中心は祭りなのです。「9月下旬になると、金木犀が香ってくるでしょう? この辺りの人は、金木犀の香りがすると『祭りが来るぞ』とソワソワするんです。ずっと前に引退した私も、今でもそうなんですよ」
 祭りを盛り上げる「若連」は、20代〜30代が中心です。齋藤さんは若蓮の会長まで務めました。
「若蓮のメンバーは、もう家族のようなものですね。夏の終わりに小さなお祭りがあるのでその準備をして、それが終わると10月の提灯祭りの準備が始まり、町内を回って寄付を募って……。そして打ち合わせや反省会と称して、とりあえず日本酒を飲む(笑)。家族以外とそこまで一緒に過ごすことはなかなかないですよね」
 それほど打ち込んだ若蓮を引退して寂しいのでは……と心境を伺ってみると、「やり切りました」と清々しい表情。それでも祭りへの想いが消えたわけではありません。
「今でも毎年の祭りは本当に楽しみですし、太鼓台が来ると走って見に行きますよ(笑)。引退してからは、今年も祭りを見せてくれてありがとう、と思うようになりました」

「俺の酒」と言ってもらえる喜び

 

今月お送りしたのは『千功成 特別純米 甑峯』。変わった名前の由来は、二本松市から見える日本百名山・安達太良山の別名から。山岳部に入るほど山を愛していた先代の想いを叶えようと生まれた一本です。

 甘めの味わいが多い『千功成』の中では比較的軽めで、さっぱりした味わいに仕上げた自信作。5年前の発売当初はあっという間に売り切れてしまい、以来少しずつ製造量を増やしてきました。
 檜物屋酒造店は、「令和3年東北清酒鑑評会」で最優秀賞を受賞しました。その際に、「俺の『千功成』が東北で一番だなんて!」という喜びの電話がたくさんかかってきたのだそうです。
「それが、まったく知らない方ばかりなんです。顔も名前も知らない誰かが、いつの間にかうちの酒を『俺の』と言ってくださるほど愛飲してくださって―。そういう方の期待に応えられる蔵でありたいです」
 これからも、『千功成』は地元に愛される酒であり続けるのでしょう。地元の祭りと共に。