日本酒の“原点”を追い求めて。辰泉酒造《福島県会津若松市》 - fukunomo(フクノモ) ~福島からあなたへ 美酒と美肴のマリアージュ~

日本酒の“原点”を追い求めて。辰泉酒造《福島県会津若松市》

代表社員/製造責任者 新城 壯一(しんじょう そういち)さん
1964年、会津若松市生まれ。首都圏の大学を卒業後、電機メーカーのハードウェアエンジニアに。
2003年に辰泉酒造に入社。2009年に代表、2011年からは杜氏も兼務している。

キャリアチェンジをして酒造りの道に進んだ人は意外と多いもの。
新城壯一さんもその一人です。

前職はハードウェアエンジニア。
一心不乱にものづくりに打ち込んでいましたが、
「自分がいなければ蔵の味が絶えてしまう」と危機感をおぼえ、酒造りの道へ。

エンジニアと杜氏、一見するとまったく違う仕事のように思えます。
しかし、新城さんに言わせると「ものづくり」という大きな共通点があるのだといいます。
蔵の一角の「研究室」で実験をくり返し、一から酒造りを学んできました。

ラベルまで自らデザインしてしまうほど、ものづくりを愛する新城さん。
今月のお酒にかける想いをじっくりお伺いしました。

日本酒の原点とは?

 今回お送りした『辰泉プリミティヴ 純米80 2023』は、挑戦的な一本です。「プリミティヴ」とは、「根源の、原始の」という意味。「日本酒の原点とは?」という問いへ答えようと、毎年試行錯誤を続けている特別な銘柄です。

 日本酒は、磨けば磨くほど―精米歩合が低いほど、洗練された味になるといわれることがあります。しかし、精米歩合20%の酒は、つまり米の80%を削っているということ。大切な原料である米を最大限に生かすには……と考え始めたのが、『辰泉 プリミティヴ』誕生のきっかけでした。

 使っている酒米『京の華1号』は、辰泉酒造にとって特別な米です。新城さんの父が農家と二人三脚で復活に挑み、福島県内では辰泉酒造しか使っていません。思い入れのある酒米だからこそ、じっくり味わってほしい―。5年前に『辰泉 プリミティヴ』を造り始めた当初は70%台だった精米歩合は、今では80%まで上がっています。

今年だけの味わい

 辰泉酒造がfukunomoに登場するのはこれが三度目。これまでの2回は王道ともいえる蔵の定番酒でしたが、今回は打って変わって実験的なものを選んでいただきました。あまり数が造れないので、限られた取引先にしか販売していないという貴重な銘柄です。

「fukunomoには日本酒好きの方が集まっていますから、たまには変わった銘柄をお届けしてもいいかと。玄人の方には面白がっていただけて、初めての方にもとっつきやすい酒を目指しています。ぜひ感想を聞かせてください」

 一般的に、精米歩合が高いとどっしりとした重めの味わいになりがちです。しかし『辰泉 プリミティヴ』は、米の旨みがありながらも、軽くさわやかな味わいが特徴です。『京の華1号』の特徴と、毎年積み重ねてきた造りの工夫が生み出した味なのだそう。

 「どうぞ自由な飲み方で」と話す新城さんですが、氷を入れ、少し溶けたところが意外な美味しさだったそう。暑さの残るこの時期に良さそうです。毎年造り方を変えているので、同じ味になることは二度とありません。今年だけの味を自由に楽しんでください。

持続可能な酒造り

 最近熟成酒に興味があるという新城さん。その理由は、「持続可能な酒造り」という意外な切り口でした。夏向けの季節酒としてよく知られる生酒は、冷蔵が前提です。蔵で、流通過程で、店で、家庭で、冷蔵のためのエネルギーが必要となり、CO₂も発生します。一方、熟成酒は常温保存ができるので、環境への負荷が低いのではないかと考えているのです。

「生酒のフレッシュな味わいは私も大好きです。それと遜色ないものを熟成酒で造ることができたら―。まだまだ理想の段階ですが、自分にできることを考え続けていきたいです」

量をたくさん造るよりも、自分が心から納得したものだけをお客様に届けたい、と新城さん。ものづくりへの探究心は高まるばかりです。