期待される酒を ただただ真摯に造るだけ。榮川酒造《福島県耶麻郡磐梯町》 - fukunomo(フクノモ) ~福島からあなたへ 美酒と美肴のマリアージュ~

期待される酒を ただただ真摯に造るだけ。榮川酒造《福島県耶麻郡磐梯町》

杜氏 冨田 真理(とみた まこと)さん
会津若松市出身。高校卒業後、18歳で榮川酒造に入社し、
以来35年以上、酒造り一筋。
2013年に「南部杜氏」資格試験に合格。
2018年より榮川酒造の杜氏として酒造りを一手に担っている。                                  

会津磐梯山の裾野に広がる森の中―。
熊も出るらしいという自然豊かな場所に蔵を構えているのが榮川酒造です。

良い酒に欠かせない名水を求め、創業の地である会津若松市から移転して30年余り。
移転直後に辺り一帯が名水百選に指定されました。
名水百選で酒を醸す蔵は、日本にわずか数蔵。
もしも移転前に名水百選に指定されていたら、
移転は認められなかったかもしれないというのは、どこか運命めいたものを感じます。

榮川酒造は、過去二回fukunomoに登場しています。
今回は、初めて杜氏の方にお話を伺うことになりました。
酒造りへの想いに耳を傾けてみてください。

両親が愛した銘柄を支える

冨田さんが榮川酒造に入社したのは、18歳の時でした。「榮川」は、子どもの頃から馴染みのある名前だったといいます。というのも、ご両親の贔屓の銘柄だったから。当時は子どもがお酒を買いに行くのも珍しくなく、近所の酒屋さんによくおつかいに行っていたそうです。加えて、野球部の先輩が何人も働いていたという縁もあって、冨田さんも入社を決めました。

 入社以来、ずっと酒造りに携わっている冨田さん。しかし、「まさか杜氏になるとは、思ってもみませんでした」と話します。流れで杜氏試験を受けることになったものの結果は芳しくなく、4回目の受験で念願の合格を果たしました。5年ほど前から、榮川酒造の杜氏を務めています。

 前任の杜氏さんはかなりベテランで、他の蔵の杜氏からの信頼も厚かったとのこと。さらに、榮川酒造ほどの歴史を持った蔵では、各種鑑評会で「金賞を取って当たり前」というプレッシャーを感じることも。しかし当然ながら、どんな蔵でも「金賞を取って当たり前」ということはありません。水・米・酵母と向き合いながら、最良の酒を造るだけです。

 週に5日は榮川の酒を飲んでいるという冨田さん。ご両親のお気に入りだった銘柄を、今ではご自身が支えています。

名水百選で造られる酒

今月お届けした『榮川 純米吟醸 原酒』は、fukumomo限定酒です。一般的に、日本酒は貯蔵後に水を加えてアルコール度数を調整します。このお酒は加水をしていない「原酒」なのでアルコール度数が高く、米の味わいをしっかり感じることができます。

「榮川の酒といえば、やはり名水百選を使っていることは外せません。『龍ヶ沢湧水』は、やわらかく、まろやかな口あたりが特徴です。水は日本酒に欠かせないものですから、本当に恵まれた環境だと思っていつも酒造りをしています。水と米をじっくり味わってみてください」

ただただ真摯に酒と向き合う

自身の酒造りについて、「まだまだ100点はあげられません」と話す冨田さん。「もちろん、自信を持ってご提供できるものだとは思っています。ただ、100点を付けたら、そこで成長が止まってしまうでしょう。まだまだ上を目指していきます。それに、美味しいかどうかはお客様が決めることですから」

 酒米の代表とも言われる山田錦。兵庫県産のものがほとんどでしたが、会津でも栽培が始まりました。この冬の造りで初めてその米を使って酒造りを行ったのだそうです。初めての試みに緊張しながら、それでも出来上がりを心待ちにしています。

「自分の造りたいものではなく、期待されているものをきちんと造ってくれる」「冨田さんの造る酒は実直で穏やかな味がする」―冨田さんを表した社内からの声です。良い時も悪い時も、淡々と酒と向き合うだけ。職人の姿を見ました。