奇をてらわず、王道を歩む。自分たちが毎日飲みたい酒を――鶴乃江酒造《福島県会津若松市》 - fukunomo(フクノモ) ~福島からあなたへ 美酒と美肴のマリアージュ~

奇をてらわず、王道を歩む。自分たちが毎日飲みたい酒を――鶴乃江酒造《福島県会津若松市》

会津若松市の中心部。
蔵が建ち並び、昔ながらの雰囲気に惹かれて観光客が多く訪れる七日町。
全国にたくさんのファンを持つ鶴乃江酒造は、ここ七日町通りに面しています。

七代目の長女である林ゆりさんが造った『ゆり』は、女性杜氏が醸す日本酒として話題に。
「蔵に入ってまだ一年目のヒヨッコが、自分の名前をお酒に付けるなんて…嫌でたまりませんでした」
ゆりさんは、そう当時を振り返ります。
「でも今では、“ゆりちゃん”ファンが全国にいるからね」と返す夫の向井さん。

大学の同期だったお二人は、知り合って二十年以上になるといいます。
公私ともに良きパートナーであるお二人に、お酒造りへのこだわりから毎日の晩酌のことまで、ゆっくりお話を聞かせていただきました。

(写真左)取締役 統括部長 向井 洋年さん
東京農業大学醸造科を卒業後、鶴乃江酒造に入社し、蔵人として酒造りに携わる。地元である千葉県で会社員を経験した後、ゆりさんと結婚。2007年に鶴乃江酒造へ戻り、現在では販売部門を一手に担う。

(写真右)取締役 林 ゆりさん
鶴乃江酒造7代目の長女。家業を手伝おうと東京農業大学醸造科で学び、卒業後に鶴乃江酒造へ。入社1年目に母と共に造った『ゆり』が、“女性による女性のための酒”として話題に。

全国に認められたとっておきの一本

『会津中将』は、全国にファンの多い鶴乃江酒造の代表作。
この銘柄を、福島県のオリジナル酒米『夢の香』で醸したのが、今月お届けした『会津中将 純米吟醸 夢の香』です。
このお酒は、向井さんにとって特別なお酒だといいます。

昭和52年に生まれた『会津中将』は、少しずつラインナップを増やしていましたが、日本酒の定番「純米吟醸」が抜けていることに気づいた向井さん。
すぐに造りを考え始めました。

米は、福島県のオリジナル酒米の『夢の香』を選びました。
ただ、数年前に『夢の香』を試して上手くいかなかったことがあり、反対の声も。
しかし向井さんは「今の造りの技術なら大丈夫」と敢行。
結果、蔵の技術と米の品質の向上によって、納得のいく純米吟醸が出来上がりました。

そのタイミングで招待いただいたのが「仙台日本酒サミット」。
気鋭の蔵元や酒販店が、互いを本気で審査する熱い大会です。
全国の名だたる酒蔵が参加する中、『会津中将 純米吟醸 夢の香』はいきなり3位を獲得!

「初参加で、事の重大さがわかっていなかったんですが、今思えば周りがざわざわしていましたね(笑)」

その後4年に渡って「仙台日本酒サミット」の3位以内にランクインした『会津中将 純米吟醸 夢の香』。
これを機に鶴乃江酒造の名が全国に広まりました。
造りにも販売にも関わった、向井さんにとって思い入れの深い一本です。

日本酒のお供は、おうちごはん

おすすめの飲み方は「みなさんの好きな食べ物と一緒に」と声を揃えるお2人。ゆりさんに、普段の食卓について伺ってみました。

「特別なものではなくて、ふつうの“おうちごはん”なんですよ。私たち、もともとあまり外食はしなくて、毎日家で、2人で日本酒を飲んでいるんです。基本的に毎日飲むので、いちいち“このお酒に合うおかずは…”なんて考えていられなくて(笑)」

先に飲み始めるのは向井さん。
お風呂上がりに冷蔵庫から日本酒を取り出し、出来上がったおかずを肴にちびちび飲み始めます。

「簡単なものや作り置きを食べてもらっている間に、メインのお肉やお魚をつくって。向井も料理をするんですよ、パスタ担当です。この前、丸のカツオをいただいた時は、動画を見ながら必死でさばいて手こね寿司まで作ってくれました」

お二人の食卓には、いつも当たり前に日本酒が並んでいる。
だから、「この酒にはこの料理が…なんて肩肘張らず、自由に飲んで、楽しんでほしいんです」という言葉が自然と出てくるのですね。

自分たちが好きな酒しか造れない

毎日日本酒を飲むというお2人、そもそもお米が大好きなのだそう。
朝食には、なんと2合半のご飯を食べるのだとか。
好きなお酒の味が、「米の味が感じられるもの」というのにもうなずけます。

「お米の味がしっかりして、でも後味がすっきりしているものが好きです」とゆりさん。
「私はあまりお酒に強くないんですが、向井は量をたくさん飲むので、飽きずに飲み続けられる、後味のキレが良いものがいいんです」

鶴乃江酒造に入社する前から、毎日当たり前のように日本酒を飲んでいたという向井さん。
一升瓶が3日で空になるそうです。

「結局、王道の日本酒が好きなんです。奇をてらわない、っていうんでしょうか。そして、自分が好きじゃないタイプの酒は造れない。どんなにお客様からお声を頂いても、ピンとこないんですよ。だからうちの酒は、私たちが好きな味ばかりなんです」と向井さん。

流行りを追いかけたり、大多数の意見に動かされたりするのではなく、自分たちが本当に好きな酒、飲みたい酒だけを造る―。
それが、米好き、日本酒好きとしてのお2人の信念でした。

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鶴乃江酒造
福島県会津若松市七日町2-46
TEL:0242-27-0139
https://www.tsurunoe.com/