蔵を守り、育てる使命を胸に 金水晶酒造店 《福島県福島市》 - fukunomo(フクノモ) ~福島からあなたへ 美酒と美肴のマリアージュ~

蔵を守り、育てる使命を胸に 金水晶酒造店 《福島県福島市》

福島市にたった一軒 蔵を継ぐひとり娘の決意

全国さまざまな屋号を持つ酒蔵があれど、これほどきらびやかで優美な名を持つ蔵も珍しいのではないでしょうか。由来を尋ねると、常務の斎藤美幸さんはこんなエピソードを教えてくれました。
「明治天皇が行幸なさった際、この近くで飲んだ水が大変おいしくて感動したそうです。その水を汲んだのが金と水晶の採れる山から湧く「水晶沢」。それほどの名水ならきっといいお酒ができるのではないかということで作ったのが“金水晶”でした。当時は別の屋号でしたが、このお酒が大ヒットしたことで金水晶酒造店と名乗るようになったと伝わっています」
そんな由緒ある蔵は美幸さんで4代目。かつてこの地域に7軒ほどあった酒蔵が次々と暖簾を下ろす中、福島市唯一の蔵として歴史を刻んでいます。
折しも取材に伺ったのは、全国新酒鑑評会の結果発表当日。1年ぶりの金賞受賞で喜びに沸く蔵では、ひっきりなしにお祝いの電話が鳴っていました。この10年間で金賞9回、入賞1回の連続受賞です。
「本当に良かったです! 最近は、試飲会に出ると、お客さんから“こんなにおいしいのに知らなかったよ、ごめんね”となぜか謝られることもあって(笑)。少しずつでも名前を知っていただけたらと思っています」
美幸さんが蔵を継ごうと決意したのは3年前。それまでは先代で蔵をたたむのが家族の間でも暗黙の了解だったと言います。美幸さん自身も、これだけ世の中にお酒があふれていれば十分と考えていたそう。しかし、今や福島市に一軒だけ残った酒蔵。地元の人が慣れ親しんだ銘柄。それを本当に無くしてしまっていいのかと、震災を経て思ったことが転機になりました。
「例えば金水晶のお酒は近隣の神社のお神酒でもありました。地域の文化や歴史と、地酒は密接に関わっているんです。私の役割はこの福島市唯一の蔵を守り育てること。酒の歴史、蔵の歴史、町の文化をつなぐという使命があります」
美幸さんの強い決意は消える運命だった蔵の火を再び赤々と灯したのです。

過去の経験を活かし、 地酒の魅力を発信

もともとはテレビ局で報道の仕事に携わっていたという美幸さん。持ち前のパワフルさと情報発信力でとさまざまな改革を進めることとなります。
そのひとつがラベルの一新。▲や●で“金水晶”の銘を表した画期的なロゴは、「SAKE COMPETITION 2017」のラベルデザイン部門で8位に。応募総数286点からの快挙でした。また、瓶貯蔵を増やすため設備を整えたり、お米の質を上げるなど造りにも気を配ります。
現在は酒造りの学校である「福島県清酒アカデミー」に通って2年目。実際に蔵に入って農業との深い関わりやお酒を取り巻く状況を見て視野が広がったと言います。極めつけは、facebookなどSNSを駆使し、お酒のできる様子を動画で配信。時代に合ったPRはさすが元テレビ局員です。
「小さな酒蔵ですので広告費用はかけられませんから(笑)。みなさん、特に“お酒のでき上がり”に興味があるようで、しずく搾りの斗瓶とりの模様や、初しぼりが生まれる瞬間などの動画はアクセス数が上がります。先日は田植えの様子をライブ配信したんです。今年は私が設計したお酒ができていく過程も配信する予定ですのでどうぞ楽しみにしていてください」
美幸さんがこんなにも自由に自分らしくアイデアを形にできるのは、信頼できる杜氏や蔵人がいてこそ。確かなお酒造りをしてくれる彼らの存在は、まさに縁の下の力持ちです。
「造りにも参加するのですか?」と尋ねると「清酒アカデミーの学生ですから、もちろん! でも初年度は“素人でも猫の手よりはましだろう”と思ったらいきなり瓶を割ってしまって(笑)。猫以下でした……」と苦笑い。
敏腕ぶりの一方、お茶目な一面が蔵人たちに愛される理由かもしれません。3年目の今年は「より地域の個性がきわだつ酒」を目指して、杜氏とともに早くも酒造計画に取りかかっています。
今後は「さらに美味しい酒で福島を盛り上げたい」と意気込む美幸さん。福島市民が誇れるお酒、福島の良さを伝えるお酒という理想を胸に今日も邁進しています。

金水晶酒造店
福島県福島市松川町本町29
TEL:024-567-2011
http://blog.goo.ne.jp/kaisyuichi/