日本酒の未来を見据えて – 人気酒造 (福島県二本松市) - fukunomo(フクノモ) ~福島からあなたへ 美酒と美肴のマリアージュ~

日本酒の未来を見据えて – 人気酒造 (福島県二本松市)

自由な発想とスタイルで飲み手を楽しませる

名峰・安達太良山が育んだ伏流水が湧き出ることから、県内でも酒造りの盛んな土地として知られる二本松市。その中にあって人気酒造の存在は、一際異彩を放っています。
そもそも人気酒造は二本松にもともとあった酒蔵を母体として、2007年に遊佐勇人社長が立ち上げた新たなブランド。「人気一」という銘柄も、かつて遊佐家にあった銘柄「人氣」に由来し、“人が気を込めて醸す”という想いが込められているそう。しかし「人氣」そのままでは字画が悪いということで、一を足して「人気一」となりました。
まだ新しい蔵元らしく、お酒のラインナップも、スパークリングや低アルコールの日本酒、1000円台で買えるカジュアルな純米大吟醸など、あまりほかの酒蔵では目にしない、斬新なコンセプトのお酒が多いのも特徴。日本酒に縁遠い若い世代を意識し、常識にとらわれず、時代に合わせた自由な発想で、次々と新機軸を打ち出しているのです。

「せっかく新しい酒蔵なのに伝統的な商品だけを造っていたのでは意味がないでしょう? 新しいものを期待している人のためのお酒を造らなくちゃ」
遊佐社長の軽快な語り口にもそんな酒蔵のスタンスが表れています。そんな遊佐社長、日本酒業界に入る前はTVドラマなどの美術スタッフだったのだとか。全く違う業界からの転身に驚いていると、「いやいや、お酒も映像も、ものづくりの世界はすべて一緒ですよ。お客様が喜んでくれるものを提供することが基本です。僕らは造った酒でお客様を感動させる仕事なんです」ときっぱり。そう言われると人気酒造のお酒に共通するラベルやパッケージの楽しさ、飲む人を選ばない口当たりの良さ、そしてもう一度飲みたいと思わせる余韻が、映画やドラマと通じるものがあるようにも思えてくるから不思議。幅広い世代に愛される理由のひとつは、このエンターテインメント性であると言っても過言ではないかもしれません。

多様化する日本酒シーンに対応していくために

人気酒造は、県内でも珍しく、1年を通して酒造りを行う通年醸造の蔵元です。その理由は簡単。 「できたてのお酒を届けたいから」。搾ったお酒はそのまま瓶詰めされるため、蔵の中に貯蔵用のタンクはありません。
「なぜ日本酒が冬に造られるようになったかというと、冬は低温状態が続き、また農閑期で人手が確保できたからなんです。ということは、蔵の中の温度をコントロールできて、なおかつ季節労働のスタイルが機能しなくなった現代では必ずしもそれを続けていく必要はありませんよね。技術が進んだ世界でこれからどう酒造りをしていくかを考えています。真夏に飲む新酒のしぼりたてはおいしいですよ!」
その一方で、人気酒造の酒造りには昔ながらの方法が活かされています。酒米は毎朝和釜で蒸し、麹もすべて手作業。良質なお酒を造るのに手間と時間をかけること以上のものはない、と遊佐社長は胸を張ります。

「お酒の世界は普段一生懸命努力していたことがやっと身を結ぶような、地味な世界です。CGで一瞬で映像を作ることとは訳が違います。そして決してひとりではできません。うちでは30代の蔵人4人が中心となって酒造りにあたっていますが、バランス良く、若い世代にも好まれる味を生み出すべくいろいろと話し合いながら商品開発をしています」
今後、人気酒造が目指すのは「ワイングラスで飲む新しい日本酒のジャンルを広めていくこと」。ここには、日本酒の飲み方やシーンの多様化に対応すること、そして海外を見据えての思いがあります。特に海外輸出には力を入れており、現在20ヵ国に向けて出荷中。そのうち最も遠いのは南極の昭和基地だというから驚きです。
業界の常識を覆す風雲児でありながら、本質を見失わない実直な酒造りに、新たな日本酒の未来を見た気がしました。

人気酒造株式会社
福島県二本松市山田470
TEL:0243-23-2091
http://www.ninki.co.jp/