逆境を超えてゆく力 渡辺酒造本店《福島県郡山市》 | fukunomo(フクノモ) ~福島からあなたへ 美酒と美肴のマリアージュ~

逆境を超えてゆく力 渡辺酒造本店《福島県郡山市》

高い技術と探究心で どんなハードルも超えていく

今年3月に発表された「平成30年福島県春季鑑評会」。「全国新酒鑑評会」の前哨戦とも言える審査会で、渡辺酒造本店の「雪小町」は、見事「吟醸酒の部」知事賞に輝きました。
「ちょうど、あるイベントの反省会に出席している時に知らせがありまして。いや〜そのあとの料理のおいしかったこと!(笑)」

報告を受けた時のことを尋ねると、杜氏も兼ねる渡辺康広社長は満面の笑みで返してくれました。冷害による米の不良、そして仕込み時期の記録的な寒さといくつも難関を突破しての栄誉に喜びもひとしおだったと言います。渡辺酒造本店はこれで6度目の知事賞受賞。一度は「吟醸酒の部」「純米酒の部」の2部門でW受賞を達成したこともあり、その技術力の高さは折り紙つき。しかし、それだけではありません。渡辺さんの酒造りは、徹底したデータによる管理・分析と、大胆な行動力の賜物であるとも言えるのです。

例えば東日本大震災の原発事故の際、目に見えない放射能の脅威に県内の米農家や酒蔵が途方に暮れていた時、いち早く立ち上がったのが渡辺さんでした。当時、県酒造組合の酒米対策委員長だった渡辺さんは、大学時代に学んだ土壌学の知識をフル活用し、作物に含まれる放射能の閾値を算出し、県や国に提言。「10ベクレル以下は不検出」の項目を打ち立て、県内の蔵元への米の供給を取り仕切ったそう。またある時は、自身が所有する田んぼで、除染せずに作付けした米で作ったお酒にどれだけの値が出るかを検証。結果、土壌の手当てがうまくいけば、苗はセシウムを吸わず、できたお米にもお酒にも放射性物質の数値は表れないことを明らかにしました。「実体験で話さないと言葉に力強さが出ない」と、リスクを取りながら実験とデータ分析を積み上げてきた渡辺さん。根っからの研究者気質と行動力で、先陣を切って逆境に立ち向かっていったのです。
「ただただ使命感でしたね。原発の構造から米の一粒のことまでトータルで話せるのは私だけでしたから。不検出の米からは不検出の酒ができる、それがわかったからこそ蔵元にも安心して造ってもらうことができたし、復興支援の大々的なPRに繋げることもできたのかなと思っています」

研究と実験が生んだ “酔わせない酒”って?

目標達成のためには、まず戦略を立て、シナリオを想定し、焦らず結果が付いてくることを待つという渡辺さん。「雪小町」の造りにも、当然、そのスタンスが活きています。キーワードは“完全発酵”と“長期熟成”。一般的な頃合いで搾らず、低温で数日。辛抱強く発酵を続けさせることで、サラサラと軽くキレの良い「雪小町」独特の味わいが生まれるのだそう。ズバリ、モットーとしているのは「酔わせない酒造り」。その心はと言うと?
「肝臓に負担をかけずに、なるべく早くアルコールが分解される造りを追求しています。適量を飲んで、次の日に残らないようなお酒でありたいんです。加えてお酒はあくまでサブで、お料理がメインですから、あまり主張しない、料理の前に出過ぎないようなのが理想ですね。“決して酔わせないので、側においてください”、そんなイメージでしょうか」

なんとも、銘柄名にぴったりの健気さ! さらに控えめなのはアルコール度数だけではありません。大吟醸でも1600円ほどといたってお値打ち。その理由は、「地元の人に“うちは普段から大吟醸を飲んでるんだ”って言ってもらいたいから」。ゴミ置場に当たり前のように日本酒の瓶が転がっていて、こぼれたお酒をカラスがついばんでいるような、そのくらい当たり前の存在になることが夢だと目を輝かせます。
「酔わせない酒造りはまだまだ発展途上。これからどんどん飲酒量が減ってくる中で、次の一手を迷わず繰り出せるような「雪小町」でありたいです」

終始軽快に、ユーモアを交えながら取材に応じてくださる姿勢からは、酒造りに対するあふれんばかりの愛情が伺えます。最後にあえてその面白さを聞いてみました。
「蔵元には再現性が求められます。気候や米の出来栄えが毎年違う中、自分の蔵の特徴を把握して、この商品のこの味を出すという心構えが必要。そういう意味で毎年1年生ですから。それでうまくできたら正当な評価もしていただける。もちろん、忖度なしでね!(笑)」

渡辺酒造本店
福島県郡山市西田町三町目桜内10
TEL:024-972-2401
http://www.yukikomachi.co.jp/

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