前人未到の、その先へ 髙橋庄作酒造店《福島県会津若松市》

会津の風土への誇りが育んだ 米から一貫した酒造り

「取材に来るなら田植えの日にしませんか?」

願ってもないお誘いを受け、髙橋庄作酒造店を訪れたのは5月の末のこと。“土産土法”(その土地で暮らす人々が、その土地のものを用いて、その土地に伝わる手法で造りあげること)を謳う髙橋庄作酒造店は、この地でお米の栽培からトータルで行う酒造りに取り組んできました。
「うちは兼業農家だから。蔵から歩いて行ける周囲に田んぼがあるんです」

そう言って自社田まで案内してくれたのは製造責任者の髙橋亘さん。“羽黒西64”と地番の付いた圃場では代表銘柄「会津娘」に使用される五百万石が植えられていました。育苗から自社で行い、田植えには「紙マルチ」という有機栽培の手法を採用。作業にあたる蔵人さんたちの表情には、和やかさの中にどこか次の酒造りを見据えた気合いも感じられます。それもそのはず、髙橋庄作酒造店では、今年度からひとつの圃場ごとにひとつのお酒を造る新たな取り組みが本格的にスタートするのです。
「福島のどこ産か、会津のどこ産かによってお米の出来は変わります。でももっと突き詰めると圃場ごとに個性や味わいも違ってくるんです。そういう米の違いをお酒として表現できないかと思うようになったのがきっかけ。どれだけ違いを出せるかは未知数ですが、ここ数年は造りの工程の中で田んぼの差以外のファクターを削るべく、徹底的に準備してきました」

ぶどうの出来がダイレクトに酒質に表れるワインと違い、日本酒にはお米の差は出にくいとされています。髙橋さんがチャレンジしようとしているのは、その違いをあえて浮き彫りにしていく造り。言わば、“土産土法”をより深化させていくことにほかなりません。
「(違いが明確になるのに)数年はかかるかもしれない。積み重ねの中できっと“羽黒西64”はこういう雰囲気の酒というものができるはず。でも最終的には、どの田んぼのどのお酒を飲んでも、“ああ、これは「会津娘」だな”と思ってもらえたら僕の勝ち!」

新たな挑戦に向け、ワクワクを抑えられないといった様子。日本酒ファンの間で絶大な人気を誇る「会津娘」の造り手の中には、好奇心と職人気質が同居しているようでした。

信念に沿った選択で 一層の高みを目指す

髙橋庄作酒造店の創業は明治8年。現在の蔵元(亘さんの父)が就任してほどなく、普通酒を撤廃し、全量を特定名称酒へと切り替えました。普通酒が伸び悩む将来を見越しての英断は、小規模な蔵を最大限活かす造りを推し進めることとなります。テーマは「鮮度の高い酒」。仕込み、貯蔵のみならずろ過後の火入れもすべてサーマルタンクで行い、お酒を常温にさらさないことを徹底。造れる量が限られるからこそ、それを補うべく貯蔵量を上げ、しかも出荷まで決して劣化させない酒造りを追求してきました。
「酒造りにおいてはY字の選択肢がたくさんあります。温度を上げるか下げるか、搾るのは今日か明日か、どちらを選ぶか基準になるのは何を目指すかです。それを考えると、自ずと選ぶ方向が決まってくるんですよね。正しい、正しくないじゃなく」

圃場ごとの酒造りを進める一方、現在のラインナップを一新するという決断も、髙橋さんの中にあるY字の選択肢によって選ばれた道。より「会津娘」らしくあるために。ストイックなまでのお酒と向き合う姿勢は他の追随を許しません。
「ここでしか、僕らにしかできないことをやりたいんです。例えば、僕らは鑑評会に出られるような技術も心の余裕もないので、金賞を受賞している蔵の方々には、まるでかなわないでしょう。でも、米を酒質に表現していくことに関しては、誰にも負けないというスタンスを取りたい。今、契約農家や自社田を持つ蔵は増えています。これは自然の流れとして当たり前。だからこそ、前からやっていた僕らはもう一段先に行かないと」

そう言って植えられたばかりの稲がたなびく田んぼを見渡す髙橋さん。前人未到の境地に挑むその背中は、新たな歴史を刻もうとする決意と覚悟に満ち溢れています。

髙橋庄作酒造店
福島県会津若松市門田町大字一ノ堰村東755
TEL:0242-27-0108
http://aizumusume.a.la9.jp/

fukunomoに申し込む