鈴木酒造店 – 浪江を思いながら長井で醸す ふたつの故郷を持つ″真の祝い酒″

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震災に負けず、再起を誓った奇跡の蔵

“日本一海に近い蔵元”。
蔵と堤防を挟んだ向こう側はすぐ海という珍しい立地から、そんな愛称で呼ばれていた鈴木酒造店。福島県浪江町で江戸時代から続く蔵元です。もともとは廻船問屋を営んでいたところ、相馬藩より濁酒の製造を許されたことが蔵元としての始まり。代表銘柄「磐城壽」は地元の漁師さん御用達のお酒としてお祝いの席などには欠かせない存在だったといいます。しかし、2011年3月の東日本大震災により全建屋が流出。さらに蔵のあった場所は東京電力福島第一原発の事故により一時警戒区域に指定され、避難を余儀なくされてしまいました。漁船が並ぶ海辺の港町から、のどかな田園風景が広がる山あいの町へ。2012年、山形県長井市で、鈴木酒造店は新たな歴史を刻み始めました。

「移転してきた当初から比べると、自分たちの造りやすい環境、長い時間仕込むのに適応できる環境がずいぶんできてきました。これもたくさんの方々が支援してくれたおかげです」

仕込み真っ最中の蔵人たちの仕事ぶりを眺めながら、そう語るのは鈴木荘司さん。製造から瓶詰め、ラベル貼りまですべての行程を担当し、蔵を支えています。
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「初めから、よそ者の目で見られるだろうということは覚悟していたんです。ここ(長井蔵)には、もともと東洋酒造という蔵元があって、私たちはそこを買い受ける形で入ってきました。しかし、長井の方々にしてみれば当然「磐城壽」は他の土地のお酒。酒屋さんやら飲食店さんとも繋がりがない中で、どうやって販路を拓いていくべきか悩んでいたんです。そんな時、向こうから訪ねてきてくださったときはうれしかったですね。お米も足りなくて大変だったけど、農家さんのほうから『米、どうする?』って言ってくださったり。つくづく人のありがたさを感じます」

一方、兄の大介さんは専務として会社経営に携わるほか、酒造りの一切を取り仕切る杜氏でもあります。昨今はメディアからも引っ張りだこ。そんな大介さんは自身の醸す酒をこう分析します。

「ウチの酒ってヘンなんです。単体で呑むとそこまでじゃない(笑)。でも、合わせる料理によっていろんな味わいが引き出されるんです。浪江は漁師町でしたから、地元の料理というと魚料理。それも白身の魚がメインでした。淡白な魚と合うお酒となると吟醸香みたいな派手な脚色はいらないし、味も濃すぎてもいけない。また、塩蔵品や干物も多いかったのでしょっぱさや酸っぱさを和らげるものでなくてはいけない。そういった条件の中間をいく酒造りをしています。どちらかといえば苦味がベースにあるので、日本酒を呑み慣れない人には少し苦手に感じるかもしれませんが、このお酒の背景にある港町をしっかり表に出したかったのでこのような方向性になりました。少しずつ日本酒に慣れていただければ、きっとこういうお酒もおいしいと思ってもらえるはず」

山あいの町から、故郷の海を想う

震災に遭い、一度は諦めかけた酒造りの道。しかし、奇跡的に福島県内の研究施設に津波で流された蔵の酵母が残っていたことで、鈴木酒造店は再び看板を掲げることができました。

「昔はけっこう好き勝手に造っていたところがあって『この味が好きな人だけ呑んでくれればいい』みたいな気持ちもありました。でも、震災以降、蔵を再興するにあたって本当にたくさんの人に助けられる中で、みんなにおいしく呑んでもらえる酒造りをしなければという思いが強くなったんです。今は山形にいて酒造りをしていますが、福島に貢献したいという気持ちは変わりません。請戸本蔵もまだ福島に置いたまま。酒造りを続けることで少しでも復興に役立てればと思っています」
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そしてそんな荘司さんの思いは、酒造りをより広い視点で捉える大介さんの姿勢へとつながっているようです。
「先日、浪江の試験田で穫れた米で作った酒を、仮設住宅に送ったら自治会長さんから電話をいただき、『今なら白魚が食べられるね』なんて話して懐かしい気持ちになりました。たとえ、これから浪江が回復しても、今のままではかつての郷土料理や文化は残らないでしょう。やはりうちのお酒は浪江の料理と一緒にあってこそ。食文化も含めて、地元の歴史を広めることがこれから自分がすべきことなのではと考えています」
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酒造りは気候や風土、そして蔵そのものの環境に左右されると言いますが、それ以上に作り手の想い、情熱があってこそ受け継がれていくもの。長井にありながら浪江を思う。また、浪江を思いながら、長井で醸す。ふたつの土地のルーツに持つ稀有なお酒は、人の心をも未来につなぐお酒となるに違いありません。

INFO

株式会社 鈴木酒造店長井蔵
〒993-0015  山形県長井市四ツ谷1-2-21
TEL:0238-88-2224
E-mail:info@iw-kotobuki.co.jp
http://www.iw-kotobuki.co.jp/

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