兄弟で踏み出す一歩 笹正宗酒造《福島県喜多方市》

蔵の次世代を担う兄弟が 共に歩む酒造りの道

喜多方市の中心部から車で15分ほど。のどかな田園風景の中にある集落の一角に、高くそびえる煙突が見えてきます。趣のある白壁の塀に守られるように建つ蔵こそが笹正宗酒造。来年で創業200年を迎える老舗です。

現在、蔵を背負って立つのは、社長兼杜氏の岩田悠二郎さんと、兄で専務の高太郎さん。兄弟での酒造りの利点を悠二郎さんに伺うと、「こき使いやすいところ」と、なんとも率直なお答え。「これ以上こき使う気!?」と、高太郎さんも応戦します。これも兄弟ならではの気安さでしょうか。言いたいことを言い合える関係が仲の良さを物語っています。

数年前まで都内で働いていたというふたり。ひと足先に酒造りの道へと足を踏み入れたのは悠二郎さんでした。 「きっかけは第1回の“SAKE COMPETITION”に行ったこと。それまでもうちのお酒は送ってもらって飲んだりしていたのですが、決審会に並んだお酒を飲んだ時に、これではいけないと思ったんです。いわゆる日本酒マーケットの上位にいるお酒と田舎で細々やってる酒蔵の味。この差をなんとかしないとそのうち立ちいかなくなるなと」

そんな悠二郎さんの危機感をもうひとり感じていたのが当時の杜氏さん。蔵に戻った悠二郎さんに「これからは造りも経営もお前がやるんだ」と、一から酒造りを教え、背中を押してくれたそう。

その後、「やる以上は東京の居酒屋にもちゃんと置いてあるお酒を造りたいし、賞も獲りたい」と意気込む悠二郎さんは新銘柄『ささまさむね』をリリース。2015年には“インターナショナル・ワイン・チャレンジ(IWC)”でゴールドメダルを受賞し、一躍人気銘柄の仲間入りを果たしました。

またその頃、時を同じくして高太郎さんも地元へ。現在は福島県の清酒アカデミーに通いながら、共に蔵を盛り上げるべく酒造りのイロハを学んでいます。 「おいしいお酒がたくさんある中で生き延びていくには、どれだけ発信ができるか。おかげさまで『最近よく見かけるよ』って言ってもらえることも増えてきました」(悠二郎さん)

兄弟で踏み出した一歩は、着実に蔵に変化をもたらしているようです。

市場を見極めた売り方で 価値を高めたい

笹正宗酒造の主要銘柄は現在3種類。かつての杜氏が残したレシピをもとに慣れ親しまれた味を極力変えずに造る『笹正宗』、かすかな微発泡を意識し現代的な味わいを追求した『ささまさむね』、香り高く高級感がありながらリーズナブルに提供する『ササ正宗』。

表記こそ違えど、すべてに蔵の名前を冠している点に潔さが表れています。「自分の好きな酒というより、作るべき酒を見ています」とは悠二郎さんの談。

中でも、自身がイチから設計した『ささまさむね』は、市場を見て、その時々に出したい味わいに進化させていくというコンセプトを持った勝負作。その先にはこんな野望もありました。

「京都の『澤屋まつもと』や広島の『賀茂金秀』のような、ガス感があってきれいなお酒に興味があるんです。実はこのあたりは福島にはまだないタイプのお酒。やはり特徴がないと埋もれてしまいますから。どこを狙うかで『また飲みたい!』と思ってもらえるかどうかが決まるのかなと思います」

やがてはワンランク上のお酒、すなわち高額でも買い手がつくように価値を高めていきたいと語る悠二郎さん。さすがは昭和50年代初頭にいち早く純米酒の製造に取り組んだり、名前入りのオリジナルラベルを作るサービスを始めるなど、時代に先駆けた日本酒の売り方を実践してきた笹正宗酒造の8代目。

時代を見通す目が受け継がれていることを感じさせます。そんな悠二郎さんの想いを、「社長が目指しているのは中身で勝負すること」と高太郎さんがしっかりサポート。

二人三脚の足並みはすでに息ぴったりです。 「酒造りは面白いです。嗜好品なのに、芸術品のように世に問うことができる力を持っているところや、マニュアル通りにはいかないところも」と日本酒の魅力を語る悠二郎さんと、「私は酒造りというより、ものづくりが好きなんですよね。その延長に今があると思っています」と、その中に仕事としてのやりがいを見出した高太郎さん。

かつて出会った偉大な先輩たちに近づくために。蔵の未来を賭けたふたりの挑戦はまだ始まったばかりです。

笹正宗酒造 福島県喜多方市上三宮町上三宮籬山675
TEL:0241-24-2211
http://www.sasamasamune.com/index.html

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