発酵の神秘に魅せられて-名倉山酒造(福島県会津若松市)

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初代の想いを受け継ぎ、若手を導く役割を果たす

「夜、シーンとしている蔵に入ると、醪の発酵する音が聞こえるんですよ。ジーとかシュワシュワとかプチプチとか。そんな小さな声に耳を澄ませるのが好きなんです。古より、松尾の神(お酒の神様)が醪に宿り酒を醸すと言われますが、理屈がわかっていても不思議に感じるのに、昔の人にとってはどれほど神秘的だったことか。そんな微生物たちの働きを見守って応援してあげる。それが酒造りの基本であると思います」

 そんな言葉でお酒への愛を語ってくださった松本健男社長。大正7年創業の名倉山酒造の四代目として、30年以上にわたって蔵を率いてきました。当初は「竹政宗」という屋号だったそうですが、猪苗代の湖畔から見える名倉山の美しさに心を奪われた初代が改名し、今に至ります。
「初代はもともと鑑定官として日本酒の研究をしていた人で、利き酒能力が非常に高かったようですね。また、そのころ越後杜氏が主流だった会津の蔵では珍しく、南部杜氏を起用したのも彼でした。従来の酒造りを変える勇気のある人だったんじゃないかな」

 そんな、酒質にこだわり、新たな挑戦を恐れない気風は、松本社長にもしっかりと受け継がれているよう。さまざまなコンクールで輝かしい成績をおさめるばかりか、長年、審査員としても活躍してきた経験を活かし、高品質清酒研究会、通称“金取り会”を創始したこともそのひとつ。有志によって結成されたこの勉強会をきっかけに、福島県内の日本酒のクオリティは飛躍的に向上しました。

「失敗の積み重ねがあったから、こうしたらダメという例をいっぱい知っていたんです。だから若い人たちが足踏みしなくていいように、それを伝えていこうと思いました。お互いに技術を教えあうことに抵抗はなかったですね。自分の家だけでやっているといろんな思い入れがあって悪いところに気づかないものなんです。よそと比べてはじめてわかることがあるし、それを対等な立場で本音で指摘することが“金取り会”の意義です」

 厳しくも率直な意見を言われることで課題に気づき、結果、全国新酒鑑評会で金賞を穫れる蔵に成長した例も多いそう。今では約20軒ほどの酒蔵が参加し、互いに切磋琢磨しています。今日の福島県産日本酒の快進撃の裏に、松本社長の功績あり! そう思わずにはいられません。

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作り手と飲み手の関係が、日本酒をより豊かにする

 では、そんな松本社長が理想とするのは、どんなお酒なのでしょうか。

「私自身が甘めのお酒が好きというのもあるのですが、口に含んだ瞬間、吟醸香の爽やかな香りがふわっと広がって、最後にほんのり甘みがのこる、そんなお酒を常にイメージしています。うちではそれを“きれいなあまさ”と呼んで蔵人全員で共有し、酒造りの指針としています」

「お酒を造り出すのは人ではなく、あくまで麹と酵母」というのが松本社長の考え方。そのために良い環境を整えるのが杜氏や蔵人で、彼らの働きやすい環境を作るのが自身の仕事と胸を張ります。名倉山のお酒に共通する、上品で透明感のある味わいを可能にしているのは、そんな蔵全体で一丸となって取り組む酒造りにあるのかもしれません。

 また一方で、松本社長は、日本古来の茶道や華道のように、お酒を飲む際にも四季や風土を考慮して楽しむ“酒道”というスタイルを提唱しています。お酒も料理も旬のものにこだわるのはもちろんのこと、酒器やロケーションにいたるまで気を配ることで、お酒との付き合い方がより豊かになるというこの思想。造って終わりではなく、飲み手のもとに届いたあとまで、トータルで演出したいという、松本社長の心遣いが活きています。

「作り手と飲み手がお互いに求めるものを補いあうことで日本酒の世界は何倍にも広がります。まさに並行複発酵(日本酒独特の発酵方法。米に含まれるデンプンを糖に変える作業「糖化」とアルコールへの変換がバランスよく行われること)と同じ(笑)。
ひとりよがりにならないことが、大切なんです」

 今後は若い世代を応援するためにも、なるべく柔軟な思考を持ち続けたいと語る松本社長。大らかな心で日本酒を愛する姿勢が、名倉山の酒造りを支えています。

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名倉山酒造株式会社
〒965-0817 福島県会津若松市千石町2-46
TEL:0242-22-0844
http://www.nagurayama.jp/

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