朗らかに、私らしく 大天狗酒造《福島県本宮市》

街で唯一の酒蔵を継ぐ 酒造女子の使命

「今日の午前中に今年最後の留添(仕込みの最後の行程)をしたので、あとは搾るのを待つのみです。今年の仕込みはすごくうまくいったなというのもあれば、失敗しちゃったなというのもあり、まだまだ思い通りにはいかないですね」
そう、はにかむような笑顔で話してくれた小針沙織さん。大天狗酒造でマネージャーを務める傍ら、今年、福島県が酒造りに携わる技術者を育成する清酒アカデミーを卒業。晴れて酒造りのプロ「酒造士」の認定を受け、新たな一歩を踏み出しました。
2014年に、結婚を機に帰郷したという小針さん。それまでは酒造りを意識したことはなく、ましてや自分が携わることになるとは思いもよらなかったそう。それでもこの道に進んだのには理由がありました。

「地元の安達太良神社の秋季例大祭というお祭りに小学生の頃からお囃子で参加しています。お祭りでは神様にお酒を奉納したり、みんなで御神酒をいただいたりしますが、そこにうちのお酒が欠かせないものであるということに気付いたんです。もし、うちがなくなってしまったらどうするんだろう、なくしたくないと思ったんです」
お祭りは街が育む文化そのもの。そこになくてはならないものであるという認識は、小針さんに「より深く地元に根付いていきたい、長く飲んでもらえるお酒を造っていく」と決意させるに至りました。街で1軒だけの酒蔵の跡取り娘として、決して軽くはない使命を背負います。

大天狗酒造は創業146年。もともとは倉庫業を営んでいたところ、小針さん曰く「時代の流行で」酒造業へと転換しました。印象的な屋号は酒造業をはじめる際に、倉庫に残った行李の中から、天狗のお面が見つかったことに由来します。古来より天狗はお酒が大好きという言い伝えもあることから、守り神の意味で「大天狗酒造」と号することになったそう。現在では生産量のほぼ9割が市内で消費される、文字通りの地酒となっています。しかし、過去には一度造りを休止していた時期もありました。小針さんが蔵に入ったのは4年前。アカデミーに通う中で、自社の造りに戸惑うことも多かったと振り返ります

「アカデミーで聞く話の常識がうちには全くなかったんです。まるで一昔前の教科書を読んでいたような感覚で、情報がアップデートされていないことを身につまされました。昔いた杜氏さんのやり方をそのまま真似しただけで、なぜそれをするのか理由はわからないといった感じで。まずは技術をきちんと勉強しなければと思いました」 温度計を水銀からデジタルにするなど、ごく小さなことにも取り組み、より現代的な造りを取り入れていったという小針さん。昨年は自身が設計から造りまでを担当した「卯酒」をリリースし、新たな看板商品を生み出しました。味わい深い辛口酒がトレードマークの大天狗酒造のラインナップの中にあって、「卯酒」は甘酸っぱく爽やか。まさに小針さんの人柄のようなキュートなお酒に仕上がっています。

「イベントで接客をしていても私が造っていると思われないことが多いんです。そこで何かひとつ私らしいものがあればと思って考えたのが「卯酒」でした。理由は私が卯年だから(笑)。本当は造るのも売るのもどちらも好き。どっちもやりたいから肩書きは曖昧なマネージャーにしています」
持ち前のアクティブさは情報発信にも活かされ、自身が運営するブログ「酒蔵女子の日記」やインターネット経由で声をかけてくれるお客さんも増えたそう。若い力は確実に蔵に活気を呼び込んでいます。
「やってみたいことはたくさんあるし、今は私が前に出ていくことに意味があると考えています。これからも人との出会いを大切に、楽しんで日本酒と向き合って行きたいですね」

大天狗酒造
福島県本宮市本宮九縄18
TEL:0243-33-2017
http://daitengusyuzo.com/

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