fbpx

研究者という過去が切り拓く酒蔵の未来――有賀醸造《福島県白河市》

コラム, 今月の酒蔵, 月刊fukunomo | | 2020年10月15日

福島県の中央南部に位置する白河市。
有賀醸造は、この地の大名屋敷「陣屋」が置かれた場所でした。
当時は酒だけでなく味噌や醤油もつくっていたため、今でも社名は「酒造」ではなく「醸造」なのです。

蔵の裏手には田んぼが広がり、昆虫やカエルと遊びながら子ども時代を過ごしたという11代目の有賀裕二郎さん。
生き物好きが高じて、生命科学の研究者の道を歩むようになります。

しかし、転機となったのは東日本大震災。
「今すぐ地元の役に立ちたい」と、大学院を退学して蔵へと戻ってきました。

研究者から蔵人へ――。
一見するとまったくの畑違いですが、酒造りと研究には、通じるものがあるというのです。
裕二郎さんに、その真意をお伺いしました。

酒蔵でも繰り返した“実験”

酒造りの手法というのは、どの蔵でも大きくは変わりません。しかし、だから簡単だというわけでもありません。「教科書通りに造ってもうまくいかない」「前と同じことをしているのに同じ味にならない」…というのは、有賀醸造の11代目である有賀裕二郎さんが蔵に戻った当初にぶつかった壁でした。

幼い頃から蔵の手伝いをしていたため、酒造りの基礎は理解していました。通い始めた福島県清酒アカデミーでも、必死で理論を学びました。しかし、それだけでうまい酒はできません。

「室の大きさや気温など、蔵の環境によって酒の味は変わります。うちの蔵にとって何がベストなのかを探るため、とにかく“実験”を繰り返しました」と裕二郎さん。そう、研究者としての経験が役に立ったのです。

室の温度、麹のつくり方、酵母の組み合わせなど、酒造りにまつわる条件をあげ、何が変わるとどうなるのかをひとつひとつ調べていきます。出来上がった酒は県の施設に持ち込んで数値を分析。少しずつ“自分の造り”を固めていきました。

当時の有賀醸造ではほとんど造っていなかった大吟醸「陣屋」を発売したのは2013年のこと。それからも実験を繰り返し、ようやく「これだ」と思える味にたどり着いたのは、その5年後のことでした。

しかし、裕二郎さんにとっては未だにどの酒も「未完成」だといいます。「蔵に戻って、まだ10年弱。ようやく造りの基礎が固まったところです。ここから有賀醸造の味を突き詰めていきます」――ここはまだスタート地点。明るく前向きな表情で、裕二郎さんはそう語ってくれました。

挑戦の心が形に成った2本

今回お届けした2本は、どちらも裕二郎さんの意欲作です。

「陣屋 純米 夢の香」は、貯蔵を常温で行っているのがポイント。冷やしてもよし温めてもよし、温度による味の変化を楽しんでください。裕二郎さんは日本酒の「熟成」に注目しているそうで、最近の季節酒はすべて異なる熟成法で造られています。

「霧の華」は、長い間有賀醸造の屋台骨だったマッコリをもっと身近にしたいと造られた和マッコリ。瓶の中でも発酵が続いている“生きた酒”です。ぜひフレッシュなうちにどうぞ。

目の前の風景を未来へと繋ぎたい

有賀醸造の裏手には田んぼが広がっています。その向こうには小学校。日々の酒造りの合間に、裕二郎さんはよくこの風景を眺めています。

「この景色は、私が子どもの頃から変わっていないんです。なんでもない光景ですが、何もしなければあっという間に変わっていってしまうでしょう。この景色を守り、次の世代に遺すのは、ここに蔵を構える酒蔵の使命だと思います」

地域のものを使ってこそ“地酒”だ、という裕二郎さん。白河で酒米を栽培し、それを使った酒造りを目指しています。その暁には、地元の子どもたちに米作りや酒造りの魅力を伝える場をつくりたいそう。「子どもたちは未来のお客さんですし、ひょっとすると未来の社員かもしれませんからね」と笑います。

新たな一歩を踏み出してから、およそ10年。歴史ある白河の地で、裕二郎さんは未来を描いています。

ーーーーーーーーーーーーーーー
有賀醸造
福島県白河市東釜子字本町96
TEL.0248-34-2323
http://arinokawa.net/

fukunomoに申し込む