松崎酒造店《福島県岩瀬郡天栄村》

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地元密着型の小さな蔵元から、今や全国にその名を轟かせる存在となった松崎酒造店。
その輝かしい軌跡の裏には、若き杜氏と蔵人たちとの試行錯誤、さまざまな挑戦の物語がありました。

就任わずかで全国区へ 31歳の杜氏の快進撃

福島県岩瀬郡天栄村。のどかな田園風景が広がるこの村には、かつては20軒ほどの酒蔵がひしめいていたと言います。しかし、ひとつ、またひとつと姿を消し、今も酒造りを行っているのはわずか2軒のみとなりました。そのひとつが明治25年創業の松崎酒造店です。地元を流れる「釈迦堂川」の旧名に由来する、代表銘柄『廣戸川』は、お米の旨味を活かした、柔らかで飲み飽きしないお酒。穏やかな天栄村の景色に馴染む、優しさと懐の深さを併せ持っています。

杜氏を務める松崎祐行さんは弱冠31歳ながら、全国新酒鑑評会で4年連続金賞受賞、全国の有名蔵が集まる市販酒のコンテストでも優秀な成績を収めるなどして、以前は200石ほどだったという生産量を、ここ5年で約3倍にまで伸ばしました。地元での流通が主だった『廣戸川』の名前も全国区に広め、今や福島県の日本酒界の若きスターのような存在です。しかしお会いしてみると、その姿は控えめで謙虚。丁寧に言葉を紡ぐ穏やかで物腰柔らかな姿勢が、造る酒にもそのまま表れているようです。

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若き杜氏が誕生するきっかけにはどのような背景があったのでしょうか。
「2011年の東日本大震災で、心労で杜氏が倒れてしまい、酒造りを続けるのが難しくなってしまったんです。そこで、震災直後の4月に福島県清酒アカデミー(日本酒の技術向上のための訓練校)を卒業した自分が、次の期から杜氏を務めることを決意しました」

通常は、蔵の跡継ぎであっても、ある程度の見習い期間を経て責任者になるもの。いきなり酒造りの現場に入った時の苦労は並大抵ではなかったと言います。
「初めはもう、とにかく見よう見真似で。いろんなお蔵の見学をさせてもらったり、あとはとにかくアカデミーで学んだことをやろうと。洗米や火入れにも手間を掛け、今までうちの蔵ではしていなかった手法も取り入れました。最初は(蔵の規模が)小さいからできたということもあるんですけど、これからも変わらず、やれるところまでやっていこうと思っています」

しかし、杜氏1年目にして造った酒が、全国新酒鑑評会で金賞を受賞。
「全国(鑑評会)なんて、うちの蔵で受賞するのは初めてだったので、それは嬉しかったです。蔵の中にも緊張感や達成感が生まれました。でも、賞を取るために酒造りをしているわけではないので。正直、酒造りに関しては、まだまだ満足できないことは多いです。新しい欲は際限なく生まれてきますね」

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理想の酒質を追い求め、さらなる挑戦は続く

高い醸造技術を持ち、個性豊かな酒が揃う福島県。その中で多くの方に選んでもらう酒を造るには、造り手側も進化し続けなければいけません。
「今期の新たなチャレンジは麹室ですね。酒を造る上で、麹室は心臓部。その室を50年ぶりに建て替えました。でも、建て替えたものの、麹と向き合いながら、新しい室の特徴を掴むのにも、なかなか時間がかかりました。もちろん醸造の部分でも毎年何かしら挑戦しています。例えば、酵母を変えてみたり、種麹を変えてみたり」

今期は暖冬の影響で、米が溶けやすく、例年以上に作業に繊細さを求められたそう。杜氏として酒造りに携わり5年。松崎酒造店にはまだまだ新たな可能性が秘められています。

「大事にしたいと思っているのは、含みと甘味。料理を邪魔せずに、でも、主張のあるお酒を造っていきたいと思っています。そして、強い酒を造りたい。造った酒がお客様の手に届くまでには、いくつかの過程があります。造り手・売り手の手を離れ、温度や環境が変わっても、変質しにくい、酒質のしっかりした酒。それが、自分が目指す酒です。1杯より2杯、1合より4合瓶、1升瓶と杯を進めていけるような酒にしたいと思っています。うちはもともとの南部杜氏がいなくなった段階で職人さんも全部引き上げ、地元の方々を雇用するかたちに変わりました。自分と一緒にゼロからやってくれる蔵人がいたからこそ、今があると思います。本気で造った1本がおいしいのはもちろん、毎日同じ力量で、無理のないことをやりながら、全体の酒質を上げていくためには、古い設備も整えていきたい。やりたいことは、山ほどあります」

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決して口数が多いタイプではない松崎さん。取材中、クルーに対してつぶやいた一言が、何よりも彼と、彼が造る酒を表していると感じました。
「自分のことより、蔵人ががんばっている様子を撮ってください。みんながいてこそ、この蔵があるので」

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目指すのは″強い酒″。若き杜氏のチャレンジは終わらない

現在、蔵には従業員2名に加え、季節によってお手伝いに来てくださる方、パートが数人といった体制。20代もふたり入ったそうで、その若い力を松崎さんも頼もしく感じているのだとか。

『石背』が生まれる町 福島県岩瀬郡天栄村

福島県の南に位置する天栄村は、古くから会津地方と中通りを結ぶ交通の要衝として栄えました。

村の西側には1500m級の急峻な山々、東側は豊かな水系を活かしたのどかな田園風景と、変化に富んだ景観が楽しめます。

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松崎酒造店
〒962-0503
福島県岩瀬郡天栄村下松本要谷47-1
TEL:0248-82-2022松崎 祐行さん
1984年生まれ。2011年、福島県清酒アカデミーで学んだ後、松崎酒造店杜氏に着任。現在に至る。

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